第2の人生がはじまる

とかいうと大げさでしょうか。
ヤブサメはこの日、脳動静脈奇形による脳出血になりました。

多分AM5:00頃(まだ暗かった)「…痛っ!」って感じで目を覚ます。
とりあえず起きあがろうとするも、すでに右半身が痲痺していたため、首しか上がらず布団に崩れ落ちました。なんかもう「ゴトッ」って感じで。
最初は、変な体勢で寝たりすると血が止まって(多分)腕とかが自分の体じゃないような感覚、あれかと思ったけど腕を揉んでも回復しないし。
なにより、ただ事じゃなく頭が痛い。

この時点で「あー」とか「うー」とかしか声もでないし。
ただ事じゃないと悟ったヤブサメは「何とかして周りの人に知らせないと!」と思い、壁際まで這って102号との壁を叩く(僕の部屋は101号)。
今になって考えれば、そんなことしても「ウルセーなぁ!!」ぐらいにしかならないのに……
ちなみに、この頭の痛さ、声が出ない、右側が動かないとなって、完全に「あー。死ぬんだー」とは思ったんですが、死んでるのをいつまでも気付かれないとか、新聞に「都会の孤独死」とかって見出しで載るのだけは御免だ!と思って頑張ってみたのです。

隣人を起こせなくて、死を覚悟したヤブサメ。しかしここで天才的なひらめきがうまれる。
「……救急車!」
壁際から電話まで六畳の部屋をのたうちまわる。
基本的には携帯が近くにあるはずだが、暴れていてそこにはないと思ったのか、寝相が悪くてないと思ったのか、とにかく一般電話に向かう。
やっとたどり着いた受話器を取り、ダイヤルプッシュ……?って、アレ?
どうにも119の番号が出てこない。パニックになっていたのか脳の「救急車は119だよ」という部分がもう壊れていたはわからないですが。

何度もダイヤルしなおしてやっと119につながる。(119をなんとなく押したのかもしれないし、あんまり何度も11☆を押したから向こうから掛かってきたのかもしれない)
とは言え喋れないのにどうしよう……
そこは日本が誇る救命救急(?)
「うー」だけでもOKでした。
逆探知かナンバーディスプレイかしらないけど、住所と名前は「〜ですね」って言ってくれます。よかった携帯じゃなくて。
受話器を置くとなんだか達成感が。
とりあえず、死んでも誰かには連絡がいくわ。「都会のアパートで孤独死!」じゃないだけましだよね。
さぁ、カモン、走馬灯――そのとき不意に電話のベルが鳴る。

走馬灯がよぎる間もなく鳴ったのは、また救急隊員の電話でした。
意識を保たせるためなのか、やたら何回も掛けてくる。(受話器を取るのも苦しいので、最後のほうはキレ気味だったはずです。救急隊員のお兄さんゴメンナサイ)
ついに救急車が到着。
ドラマみたいに「ヤブサメさーん!」ってやってる。
「これ、ヤブサメさんの携帯?開けていい?」
「…うー」(あーもう好きなだけ電話帳見ちゃってください。)
ヤブサメさん、保険証どこにあるかな?」
「…うー」(えーとそこのスチールラックにおもちゃの缶詰があるんですがその中の角缶のなかに……)て、わかるか!!

最後の力を振り絞って、おもちゃの缶詰の角缶をつかむ。
ひらいたその中に保険証が。
あぁ、この世で最後の行動がおもちゃの缶詰を開けることだなんて!
ともかく必要なものはそろった。あとは病院へ向かうだけだ!
時間はAM6:00ぐらいだったんでしょうか?外はもう明るかったです。いや、頑張った。俺。
しかしヤブサメの意識もここで途切れるのでした。チーン。