そこはCoCo一番でした

その家は通学路の途中にあった
それまではただの通学路の途中にある、とくに気にも留めない家
初めてその家に気が付いたのはたしか、中学1年か2年の夏だったと思う
通学途中にその家の前を歩いていて、ふと目をやったその家の2階の部屋の窓が開いていた
そして部屋の天井のほうから、誰かがこちらを、うっすらと笑みを浮かべながら見下ろしていた
友達と学校に行く途中だったのですぐに通り過ぎてしまったが、あれは誰だったか?
友達でもない。知り合いでもない。しかし解る。その一瞬では誰かわからなかったけども、あの人を知っているのは間違いなかった
 
その疑問は唐突に晴れた
夜にテレビを見ていたときに、その誰かは目の前にいた
あれは『CoCo』だ
カレー屋にはよく行ってはいたけど、そっちではない。アイドルだ。羽田惠理香
あの家の住人が天井にポスターを貼っていただけだった
なんだ、流行のアイドルのポスターぐらい貼っている人が居てもおかしくは無いな。しかし天井かぁ、寝るときに目線の先にあるというのがいいんだろうか? 部屋を暗くしたらどうせ見えないだろうに…… 
その翌日、通学途中にまたそこを通ってみると昨日は気付かなかった水着の5人がいた
間違いなく『CoCo』だ
それも天井に貼られていて、さらに壁(ふすまかも知れない)にもポスター貼ってあった
この部屋の人は、当時恐れられていた「おたく」なのかも知れない。そう思った
 
アイドルは生まれては消えを繰り返していく。『CoCo』も例外ではなくて僕が高1の時に解散したらしい。それぞれソロ活動へ活動場所を移した
それからというもの、毎回その家の前を通るのは楽しみだった
これでこの人が誰のファンかわかるはずだ。1人途中で脱退してるので4人の中で誰かが好きなんだろう
いったい4人の中の誰のファンなんだろうか? 誰のポスターに張り替えられるのか?
 
しかしいつまで経ってもポスターは変わらなかった
僕はこう結論付けた
「この人がファンだったのは、あくまで『CoCo』であって、「『CoCo』の誰か」ではなかったのではないか。そしていつかソロ活動を経たメンバーが『CoCo』を再結成してくれるのを待ち続けているのではないか」と。
そしてその日、そのCoCoへの愛の深さを勝手に知り、僕はこの家を「CoCo一番館」と勝手に呼ぶことにした。
 
 
――そして3年前――
 
僕の町は水害に見舞われて、一帯の家々は一階部分が水に浸かった
上京していた僕も、実家の片付けのために帰郷した
その時に実家の一階と「CoCo一番館」の変わり果てた姿を見てしまった
実家の一階は物が何も無かった
「CoCo一番館」のポスターはすべてモーニング娘。に変わっていた
 
古い家だったから直そうとしなかったのか、いい場所に新しい家が見つかったのか。とにかく「CoCo一番館」は取り壊され、今そこには何も無い
家も。CoCoへの愛も